昔ながらの在来工法、つまりタイル張りの浴室で育った世代にとって、浴槽が古くなったから交換するという決断は、思わぬ「隠れた費用」との戦いになることがあります。システムバス、いわゆるユニットバスであれば、浴槽はパズルのピースのように組み合わされているため、比較的スムーズに交換できる設計になっています。しかし、在来工法の場合は、浴槽が壁のタイルや床のコンクリートと密接に一体化しており、浴槽を一つ取り出すだけで、周囲の壁を壊し、防水層を破壊しなければならないケースがほとんどです。この解体作業こそが費用の膨らむ最大の要因であり、解体した後に元の状態へ戻すための左官工事やタイル工事の費用が、浴槽本体の価格を上回ってしまうことさえ珍しくありません。さらに、古い家であればあるほど、浴槽を撤去した後に床下の土台が湿気で腐食していることが発覚するリスクが高まります。長年の使用でタイルの目地から浸入した水が、目に見えない場所で木材を腐らせ、シロアリの被害を招いている場合、それらを放置して新しい浴槽を設置することはできません。構造部分の補強やシロアリ駆除といった追加工事が発生すれば、当初の見積もりから十万円単位で費用が跳ね上がることも覚悟しなければなりません。また、昔の浴槽は現代のものに比べてサイズが特殊であったり、搬入口である浴室のドアが狭かったりすることも、費用を押し上げる要因となります。新しい浴槽を運び込むためにドア枠を一度取り外したり、壁の一部を一時的に撤去したりする必要があれば、その分の大工仕事が増えることになります。このように、築年数が経過した住宅での浴槽交換は、単なる「物の買い替え」ではなく、建物の構造に関わる「建築工事」としての側面が強くなります。見積もりを取る際には、現場調査を徹底的に行い、万が一の追加工事が発生する可能性について事前に詳細な説明をしてくれる業者を選ぶことが、予算オーバーを防ぐための唯一の防衛策と言えるでしょう。
築古住宅の浴槽交換で見落としがちな追加費用